食事会01「序章」
序章
[手紙]
一月前
3月1日。晴れ。夕方。
アパートに帰宅すると、
ドアの間に一枚の封筒が挟まっていた。
ポストに入ってなかったのが不思議だったが、
ラブレターかもしれないと期待しつつ部屋に入った。
中身は期待していた物とは違った。
高橋 叶音様
この度、弊社会場にて一ヶ月の心理テストを行いたく、
選考の結果、貴方様が選ばれました。
報酬は貴方様次第で莫大な物になりますが、
場合によっては借金が発生する場合が御座います。
参加して頂けるのでしたら、
4月1日にお迎えに参上致しますので、
目印として添付のシールを玄関にお貼り下さい。
また会場に到着してからの棄権も受け付けておりますので、
ご安心下さい。
内容はたったこれだけだった。
[思考]
「詐欺?」初めに浮かんだ言葉だった。
だが、詐欺にしては、借金が発生するとリスクが書いてある。
詐欺にしても妙だし、こちらのリスクが現状何もない。
更に詐欺にかけるにしても、
ワーキングプアで小銭しか持っていない上に、
貯蓄も多くはない。
試しにアパートの他の部屋を見たが、手紙は挟まっていなかった。
自分だけに届いたのか、他の部屋にも届いたのかわからない。
改めて手紙を見てみると、高橋 叶音と自分の名前を書いてある。
表札には「高橋」としか書いておらず、
「かのん」という名前は、基本的に名乗っていない。
大概の事は苗字だけで済んでしまうからだ。
たまにバイト先で名前を呼ばれるが、漢字までどうやって調べたのだろう?
心理テストとやらの事前調査で下調べが行われたのだろうか?
わからない事だらけだが、現状において参加する事でのリスクはないらしい。
とりあえず参加する事にして、
内容を聞いてから辞退するのもありだろう。
借金は不安だが、莫大な報酬という部分には魅力を感じる。
一ヶ月の休みを貰うとなると、解雇されるかもしれない。
これがリスクか、多少は貯蓄があるから、
次のバイトが決まるまでは何とかなるだろう。
とりあえずバイト先に電話を入れる事にした。
案の定4月1日付けで解雇される事になった。
これで報酬を手に入れるしかなくなった。